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奈良吉野川源流麦谷の砂防ダムから見る公共事業の予算

渓流釣り
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渓流釣りで目にする砂防ダム。砂防ダムは誰が何の目的で作ったのか、知っていますか?今日は奈良県の吉野川源流にある麦谷に建設された砂防ダム堰堤を題材に建設した目的、予算・地方自治体の予算について紐解きます。

奈良麦谷砂防ダム(吉野川源流、透過型砂防堰堤・公共事業を渓流釣りをしながら解説)

麦谷川の砂防ダム

平成24年着工透過型砂防堰堤

麦谷川は和歌山市内を流れる吉野川の源流、東吉野村に位置します。薊岳という標高1,406mの山を源としています。

砂防ダムの多い渓谷で、淵にはアマゴが生息しています。

麦谷川は東吉野村漁協が管轄しており、釣りをしたい人は遊漁券を購入し、安全に注意して入渓ください。

さて、集落から渓谷を登っていくと、開けた工事現場となりました。

橋の上に資材置き場を作るという豪華な橋梁がありました。紀伊半島大洪水で崩壊した道路の復旧工事を進めており、上流には透過型砂防堰堤がありました。

堰堤の横に記載されていたのは

砂防激甚災害対策特別事業
麦谷川 2号砂防堰堤
堤高 19.9m 全長48m
着工 平成24年10月
竣工 平成26年8月

とありました。

国土交通省水保全・国土保全局の資料では砂防堰堤工事業費100百万円とあり、下記の予算で作ったのでしょう。

2011年紀伊半島洪水

2011年8月に発生した台風12号は、ゆっくりとした速度で北上を続け、湿潤な空気が流れ込みました。紀伊半島に大量の雨を降らせて、紀伊半島の数か所で深層崩壊を起こしました。全国で98名の死者・行方不明者を出す甚大な被害がありました。

降雨マップを見ると、三重・伊豆・高知の右下が年間降水量3,600mmと赤くなっています。紀伊半島は広範囲で赤くなっています。

台風はコリオリの力の影響を受け、反時計回りで回転します。南東からの湿った風がの高い山にぶつかり、激しい雨を降らせます。一昨年、三重の銚子川に渓流釣りに行ったとき、山の奥は雷雨となりました。

ただ、よく見ると紀伊半島の中でも奈良市や東吉野村あたりは年間降水量2,000mm程度です。大台ケ原で雨を降らされ、奈良まで届く雨雲が少ないのだと思います。

大雨で崩れることが少なく、三重の紀北町と比べると崩れやすい土砂の堆積も多かったのだと思います。滅多に起こらない大雨は奈良の山岳地帯に深層崩壊をもたらしたのだと思います。

麦谷川深層崩壊箇所

この麦谷川も大規模な土砂崩れがあり河道閉塞天然ダムができました。

渓谷には爪痕が今も残っていました。山の上まで木が育っておらず、土砂の流出量の多さを感じます。

硬い岩盤の上に表土層が分厚く積み上がっています。今も岩盤部分に水が染み出していました。大雨で表土層に水分が溜まると重みで表土層が一気に崩壊し、深層部も巻き込み大きな被害をもらたらします。

参照)2011年紀伊半島大水害 国土交通省近畿地方整備局 災害対応の記録

https://www.kkr.mlit.go.jp/bousai/qgl8vl0000008ajd-att/kiihantou-kirokushi.pdf

災害復旧の仕組み

河川復旧は河川管理者(国または地方自治体)が担います。年度途中に突発的に発生する経費であるので、通常の治水事業予算とは別枠で財政措置する仕組みが用意されています。

復旧には、原形復旧と改良復旧があり、原形復旧の国庫負担率は2/3以上と通常よりも国庫の負担が高くなっています。改良復旧は、災害復旧に加えて(もしくは)通常の治水事業予算を活用して対策を行う制度、河川災害復旧等関連緊急事業(復緊事業)、河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)があり、国庫負担率は原形復旧よりも少ないです。

麦谷川の砂防ダムは、激特事業なので、改良復旧での建設だと分かります。

公共事業の予算と地方の歳入

国土交通省の予算

2022年度の補正後の予算を見ると、公共事業が5.5%(5.1兆円)を占めています。

財務省HP
https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/index.html

補正予算と国土強靭化で増加している所がありますが、おおむね5-7兆円近辺で推移しています。

https://www.mlit.go.jp/page/content/001723320.pdf

予算の増減がないとはいえインフレにより資材価格と人件費は上昇しており、公共事業をボリュームで考えると、建設規模が縮小しているのだと思います。

地方整備局

国土交通省の中に地方整備局があります。

国土交通省は6万人を有しており、地方支分部局は3万3千人と半分近くを占めています。

東北・関東・北陸・中部・近畿など各地方で組織があり、地方整備局ごとに採用活動をしています。

近畿整備局の予算を見ると

https://www.kkr.mlit.go.jp/profile/yosan/r6/r9733f000001h732-att/r6yosan.pdf

1兆737億円の予算になっています。うち令和6年度の奈良県の河川関係の予算は69億円の予算になっています。紀伊山系に多くの予算を割いています。直轄事業の砂防事業は、2割程度が地方負担で予算を取られています。

https://www.kkr.mlit.go.jp/profile/yosan/r6/r9733f000001h7v9-att/08nara0226.pdf

地方交付金を加味すると砂防ダムの国庫負担率はどれくらい?

都道府県・市町村には地方交付税交付金があり、奈良県と東吉野村の歳入をみると、

奈良県の県税収入

奈良県の令和4年度の歳入をみると、地方交付税が30%を占め、国庫支出金が13%あります。国庫支出金は義務教育や生活保護など用途が決まっているものです。

東吉野村の県税収入

東吉野村の予算を見ると、6割が地方交付税であり、国庫支出金を合わせると73%が国からの支給額で占めています。

砂防ダムを建設するのに、地方自治体も負担していますが、その歳入の大半は国からの交付金となっています。

砂防ダムを建設するのに、地元の企業を使えば、雇用が地元に生まれ、地方税収の足しになるので、地方として河川整備を行うインセンティブが大きいと思います。

大切な税金を無駄な人口の少ない地方の公共事業に使ってけしからん!と思うかもしれません。

しかし、流域での公共事業のメリットを考えるのも大切だと思います。吉野川の下流には35万人を有する和歌山市があり、河口には日本製鉄の工場もあります。源流となる山岳地帯で治水事業を行うことで、下流の洪水を防ぎ損失を軽減できると思います。

大阪市と淀川、東京都と荒川や多摩川など大きな河川の河口付近には大都市が形成されており、災害リスクを軽減することで、莫大な損失を回避できています。

支払っている税金にはちゃんと意味があると信じましょう!!

砂防ダムの寿命と透過型砂防堰堤

不透過型砂防堰堤

砂防ダムは土砂の流出を防止するので、巨大な砂防ダムでも10年もすると土砂で満杯になります。

満杯になると土砂を貯えられませんが、渓谷が安定勾配になり、中小の洪水時に土砂は下流に流れ、大出水時に土砂を堰き止めます。また、土砂が堆積してからも、河道の浸食防止、山腹崩壊の防止の効果があります。

参照)兵庫県治水・防災協会

しかし、土砂を堰き止めてしまうので、下流での土砂供給がなく、栄養が下流に流れず、砂浜が消失するなんて話もあります。土砂を掘り出そうにも、渓谷にある土砂を搬出するのも一苦労です。

強度の弱い昔の砂防ダムは崩壊することもあります。百瀬川という滋賀の渓谷では、土砂の流出が多い河川で、古くから砂防ダムが建設されています。しかし、上流の昔の時期に造られた砂防ダムが崩壊していました。

透過型砂防堰堤

近年注目されているのが、透過型砂防堰堤です。土砂は通すけれど、被害を大きくする木材の流出を抑えてくれます。

広島の豪雨災害でも、谷の流木が下流の橋を塞ぎ、川が溢れて、大きな災害を引き起こしました。

鉄パイプの間から水が流れているので、アマゴやイワナ、水生昆虫の行き来も容易にできます。

鉄構造物の隙間から小さい土砂は流れるとはいえ、挟まった流木が積み重なると流水口を塞いでしまい、土砂が堆積してしまうので定期的なメンテナンスが必要です。ただ、土砂の堆積スピードが不透過型砂防堰堤よりも緩やかなので、コスト削減に繋がる気がします。

四郷川の源流にはスリット型砂防堰堤が多数あります。イワナも生息しており、生息域の分断が起こらず良いと思いました。

何より、砂防ダムを越える時に大回りしなくていいので、釣り上がるのが楽で良いです。

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